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今を生きる - 月見


―ぼくは主に彼に向かって話した。
「よくね、"今を行きよう"とか"今日を生きる"とか言うでしょ?」
「うん、言う。」
「でもよおく考えてみるとね、それってすごく難しいことだと思うんだよね。よおし、今から"今を生きる"ぞ、なんて考えて力入れたって、だめでしょ?具体的にどうしたら今を生きたことになるのか、実はよくわからないよね?」

―ぼくは十分な間をおいてから、言った。
「どうすればいいのか、わかんないよね。お父さんにもわからない――ただね、逆さまに考えてみて、こうしたら"今を生きる"ことにならない、っていうことだけはわかったんだな」
「え?どういうこと?」

「―あーあ、昨日あんなこと言わなきゃ良かったとか、あんなふうにならなければなあとか、後悔したり悩んだりする――と、その時間って言うのは、今を生きてることになるかな?」

―原田宗典著 "はらだしき村" の"今を生きるということ"より抜粋。



ああ…無念…無念だ…!

しかし…仕方ないのさ…これも…!
無念であることが そのまま「生の証」だ…!
思うようにいかねぇことばかりじゃねえか…生きるってことは…!
不本意の連続…時には全く理不尽な…ひどい仕打ちだってある…
けどよ…たぶん…それでいいんだな…
無念が「願い」を光らせる… 嫌いじゃなかった… 何か「願い」を持つこと
そして、同時に今ある現実と合意すること…
不本意と仲良くすること…そんな生き方が、好きだった…

―福本伸行著 "天 -天和通りの快男児-" 18巻より抜粋。


「はらだしき村」、「天」 どちらも、暇つぶしとして手に取った本だった。
前者はファミレスでの待ち時間を。後者は勉強する気になれない連休の一日を。
そこには、読み飛ばすにはあまりに重すぎるものがあった。

自分は"今を生きて"いるだろうか。
"今を生きて"いたことはあっただろうか。
斜め読みしながら考えてみる。もちろん、そんな簡単に答えなど出るはずもなく。
その哲学は、"平和な外食風景"に姿を変え、単なる思いつきに身を潜めた。

ファミレスを出た駐車場。見上げる夜空に、母がこう言った。
「そういえば、今日は満月だっけ。」
なるほど、空には綺麗な満月が浮かんでいた。
"もうそんな時期か"という感傷は、田舎の香水と共に
家族団欒へと再び身を潜める。

やる気が起こらない。気力がない。厭世観すら覚える。
そんな俺は、マンガという手頃な現実逃避に身を任す。

すでに数度も読んだタイトルだった。
翌日が休みなのを良いことに、一気に読了せしめた。
死ぬって何だろうな。思考が巡る。

そんなネガティブな頭を切り換えるべく、シャワーを浴びる。
体を洗いながら、今日一日を振り返る。
ああ、なんと無意味な一日であったか、と。
何度同じことを繰り返すのか、と。

本来の目的どころか、より陰鬱な気持ちで風呂から出る。
このまま不貞寝するのが得策か、などと考えながら頭を乾かす。

―そういえば、今日は満月だっけ―


いつもの自分だったら、気にもせず部屋に戻り
眠くなるまでネットで時間をつぶし布団へ入っただろう。

だが、部屋へは向かわずに冷蔵庫をあさった。
そこには、期待通り日本酒の一升瓶があった。

親に気取られぬよう、牛乳やらジュースやらを飲むコップに半分くらい注ぐ。
見つかっても咎められることはないだろう。気恥ずかしいのだろうか。


そして部屋に戻り、―いつもなら真っ先にPCを触るところを―ベッドに腰掛ける。
重いカーテンを開き、空を見やる。


なんと綺麗な月だろうか。


網戸越しでは物足りない。
部屋は暗いのだ。虫が入ってくるものか。入ってきても気にするものか。
網戸を開ける。月と部屋との間を妨げるものは何もない。


なんと綺麗な月だろうか。


無粋なアルミのコップに入った日本酒をあおる。
月を肴に酒を一口。


なんと綺麗な月だろうか。


往来が多くやかましいだけの国道も
丑三つ時となればなりを潜め、
信号が刻む脈拍と
時折トラックが遮る街灯だけが
静かに主張していた。


なんと静かな景色だろうか。


コップの日本酒を飲み干し、もう少しついできておけば良かったと後悔する。
こんなに日本酒の合う夜はそうそう無いだろう、と。

ベッドに腰掛け、窓枠に腕を投げ出し、そこに体を預け、月を見る。

―ああ、なるほど。兎が餅つきをしている。
―俺が感じているこの光はいったいいつ生まれた光なんだろうか。
―あの国道を行くトラックはどこから来てどこへ行くんだろうか。

酒の勢いも手伝って、頭を思考が巡る。思考を時に預ける。


そして、気づいた。

―ああ、これが"今を生きる"ってことか。

明日は十六夜(いざよい)。
キザだ、とかロマンチストだ、とか十六夜わずに
月を見ながら時に身を任せてみませんか?

投稿者 Zawa : 2005年09月19日 02:01

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コメント

秋日感慨。
いい文章だね

投稿者 ai : 2005年09月19日 20:17

前半で鬱になり、
後半でしんみりした

荒んだ心に心地良い

投稿者 ぱぴ☆よん : 2005年09月19日 21:55

18日

俺も満月見たよ。バイトに行く前に。きれいだったな〜。

そして19日にも見た。バイトに行く前に。

この日は雲がかかっててまた違った印象をうけた。

じゃあ、明日バイトに行く前にはどんな月が見れるんだろう?(T_T;)

投稿者 ksk : 2005年09月20日 03:40

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